TULLY'S COFFEE 物語 その6

一息ついた所で映画の話題をデザートにお茶を飲む。

「実は僕、EP3見るの2度目なんですよ。」
「あら、私も2度目ですよ。」
「あー……じゃぁ別の映画にしたほうがいいですか?」
「ううん、あの子から聞いてますよね?私がスターウォーズ好きだって。実際もう一度ぐらい劇場で見たいと思ってましたし。でも、近場じゃなくてわざわざこんな所まで連れて来るって事は何か凄かったりするんですか?」
「そうそう、そうなんですよ。ここは日本でも数少ないフルデジタル上映を実施してる劇場で、僕も来るのは初めてで色々と楽しみなんです。特にDLPっていう方式のプロジェクターが……」
そのまま語り続けること10分。
「……なので、2度目でも十分楽しめるかな、って思って。」
「……」
「う……ごめんなさい、思わず一人で熱弁ふるっちゃって。……引きました?」
「引くっていうか、うーん、案外オタクだったんですね。」
「オタク、ねぇ。気になると色々調べちゃったり、好きなものにはこだわりがあるという意味ではオタク的。マンガとかアニメとかゲームとかパソコンとか好きっていう意味でも確かにオタク的。でも『オタク』が持つネガティブなイメージっていうのは、一つの事に固執する余り回りが見えなくなって多様な価値観を認めなかったり、服装やエチケットやマナーに気を使わなくなったり、ひいては奇怪な行動を起こしたりする所にあると思うんだけど。」
「そうやって語っちゃう所もオタク的、ですね(笑)」
「ぐぁ」
「でもいいんじゃないですか?こだわりがある男の人って格好良いと思います。」
「そう言って貰えると嬉しいけど。」

……そして見た映画は「素晴らしい」の一言だった。設備の良いシアターのためにわざわざ郊外まで来たというのもあるが、何より好きな人と一緒に見るという心理的効果が大きかったかもしれない。興奮冷めやらぬという感じだがこのままロビーに突っ立って居る訳にも行かず、口を開く。

「本当ならこのあとお茶、という予定を目論んでいたんですけど、順番逆になっちゃいましたね。」
「誰かさんが早く来るからですよー♪」
「ちょ、人のこと言えないじゃないですか!……でどうします?
 いち、もう一度お茶。
 に、お買い物。
 さん、ちょっと時間早いけどご飯もしくは酒。
 よん、もう帰る。
 ご、ほほほほほホテ」
「4。」
「……」
「冗談よぉ、そんな泣きそうな顔しないでってば。じゃ、お買い物してからご飯で。丁度靴を欲しいと思ってたの。付き合ってくださる?」
「As your wish, Your Highness.」

映画の台詞を引用しながら恭しく頭を垂れる。お姫様扱いされて喜ばない女の子は居ないはず、なんて思いながら視線を戻すと予想通り照れた顔が。その顔を見てピカーンと思いつく。“よし、今日はお姫様ごっこの日!”

「では参りましょうか、お姫様」

キザったらしいポーズで手を差し出し、気分は執事、いや王子様。踊る阿呆に見る阿呆……じゃないけど、なりきっちゃえば案外恥ずかしくないぞこれ。一方彼女は照れているんだか、恥ずかしがっているんだか、恐らくその両方の表情を浮かべて戸惑いながらもその手を取る。よしよし、馬鹿にされたらどうしようかと思ったが……

「ど、どこに連れて行ってくれるのじゃ?」

お、乗ってきたぞ。でもまだ吹っ切れてないのか、顔を赤くしながら微妙に視線を合わせてくれない。ああもう、可愛いなぁ。