軽・ダート耐久走行会@オートランド千葉

「寒い!」
モジャは思わずつぶやいた。今年の風来旅団レース活動を締めくくる予定の地、千葉オートランド。「世界で一番熱い街」ヒートアイランド現象で異常と言える程暖められた東京とは一味違う、底冷えのする寒さがドライバー達を襲っていた。すんなりとは終らない――そんな予感のする寒さだった。

カートでは一定の成果を残してきた今年だが、ことダートにおいては「完走」というリザルトを残せないシーズンとなってしまっていた。「まずは無事、完走を――」そう誓いを立て挑んだOMAスポーツカークラブ主催“Kei DirtCup”最終戦。風来旅団ではダート車両を所持していないのでレンタルクラスでの参加となるわけだが、ここでの車両チョイスがこの日の運命を決めると言っても過言ではないため慎重に選ぶ。車両選択は特に抽選などは行わずほぼ先着順。幸い風来旅団より先に受付を済ませたチームは居ないらしくじっくり選ぶことができた。とは言ってもメカニックの知識は無いので何が判るという訳でもないのだが……そんな中一台の車、三菱・ミニカが目に留まる。ざっと見てみると確かに他の車と比べてフロントタイヤがバリ山、シャシーもしっかりしてそうだし、何より車体からオーラを感じる。「俺は速いぜ!」そう語りかけてくるコイツに運命を預ける事にした。この選択が吉か凶か。

ドライバーズミーティングを経て練習走行が始まった。トップグループの連中は軒並み練習に参加していないので、勢い挙動の微妙に怪しい車が多い中での走行となる。こんな所で車を壊しては元も子も無いので、全開アタックはせずに車とコースの感触を確かめるだけに留める。モジャ、そして重冨も似たような感じであるようだ。終了後、チームドライバー間で情報交換と意思の統一を図っておく。路面状況は前回より良く格段に走りやすい。車も概ね良いようだが、車体が跳ねた拍子にギアが抜ける事があるようだ。「抜ける場所さえ覚えてしまえば大丈夫。」重冨はそう言って笑うが、それは彼のテクニックあってこその余裕の発言であろう……Fatalにはそう思えてならなかった。

そして本戦。スタートドライバーは前回同様重冨が務め、改造車クラスの6台を先頭に19台がローリングスタートで1列となってスタートを切っていく。いかに軽自動車とはいえこの台数が一丸となって土煙を上げコーナーに飛び込んでいく様は圧感だ。自分でドライブしている時は感じないが、この中に自分も居るのだ、と改めて考えると恐ろしくなる。……そんな事を思っていると早くも先頭車両が戻ってきた。どうやら大きな混乱はまだないようだ。しかしさすが重冨は速い。15番手スタートのはずであったが、気がつけば8〜9番手あたりを走行し改造車クラスにも迫ろうかという勢い。このままドライバー交替まで安心して見ていられるかと思いきや重冨の前方に突然激しく白煙を噴く車が現われる。突如塞がれる視界。まずいか!?と心配したがそこはプロドライバー。多少の視界悪化ではびくともせず無事Fatalにドライバー交替。

Fatalにとってはいつものことであったが、この日も彼はドラポジに悩まされていた。体が大きい故にどうしても窮屈な態勢にならざるを得ないのは慣れているのだが、元のシートレールが斜めなためシートがかなり”寝た”角度で取り付けられており、ステアリングは遠いのだが足がつかえて前に寄れないというジレンマを抱えいつも以上に無理なポジションでのドライブを強いられていた。それでもどうにか破綻しない範囲で操作を行っていたが、追い撃ちをかけるようにさらなる問題が発生した。練習走行では1周数ケ所しか抜けなかったギアが、路面の悪化のせいかあらゆる場所で抜けるようになってしまっていた。アクセルを踏んで姿勢を安定させるFF車の乗り方で、コーナリング中の迂闊なタイミングで抜けるとかなりやっかいな事になる。「ええぃ、仕様の無い!」左手は常にシフトレバーに沿え、不自然な姿勢を余儀なくされつつ片手運転で次々とコーナーをクリアしていく。コースが左回りであったのが不幸中の幸いか。

そしてドライバーはモジャへ。前回横転しリタイヤの原因を作ってしまった彼は殊更慎重なドライビングを見せる。しかし慎重さは良い方向に働いたようで、以前はやもすれば暴れがちだった車の挙動がピタリと安定してい全く危なげがない。彼と対照的に挙動の不安定な車と絡むことが若干あったが接触等もなく30分近くを走りきり、重冨にバトンタッチ。

相変わらずシュアな走りを見せる重冨だが、この時間辺りから周囲は慌しくなってくる。スピン、横転する車が出はじめ、ひっきりなしにイエローフラッグが振られしばしば赤旗が出る。予定の走行時間をやや残した時点で赤旗が出たのを機に、ドライバー交替のタイムロスを減らすべくFatalにチェンジ。

そしてこのスティントは大波乱のスティントとなる。
最初の異変は1コーナーだった。横転、横転、そしてまた横転。1コーナーを抜けようとしたFatalの目の前に現われる裏返った車。マーシャルからは赤旗が振られ、レースは中断。横転車両を除去し、レース再開……何周もしないうちに、また1コーナーで裏返った車が現われる。再度赤旗が振られ、そして再スタート……次の1台はFatalの目の前で「宙を舞った」。どうやら1コーナーイン寄りに“穴”が開いているらしく、主催者からアウト寄りを通るようアナウンスが出された後は十数分何事も無く過ぎていった。「そろそろ交替の時間か?」そんな考えがFatalの脳裏をよぎった瞬間、前に居た車がミスをしアウトにはらんだ。「この先は直線……悪いが抜かせてもらう!」ブレーキをわずかに遅らせ、相手の車のイン側に車を滑り込ませる。このまま立ち上がれば何事も無かったように抜けるはずだった。が、アウトにはらんでいったはずの車が突然イン側に切り込んで来た。ステアリング操作を誤ったか、後ろを見ていなかったのか、はたまた抜かれたく無かったがための故意であったのか今となっては窺う方法もないが、とにかくFatalは接触を避けるためステアリングを切り足しイン側に逃げた。逃げた先には土の壁があった。そこに乗り上げ、車体はゆっくりと――Fatalにはそう感じた――傾いていき、90度をやや過ぎた角度で一度揺り返し、そこで止まった。地面と車体に挾まれたサイドミラーが弾け飛ぶ光景がやけに印象的だった……
奇しくも前回のモジャと同じコーナーで横転してしまったFatal。コースオフィシャルの4WD車に牽引され、パドックに戻る車体の中彼はうなだれていた。エンジンもかからず、もう駄目か……と諦めかけていた。しかし、パドックで車体の再チェックをし、何度かセルを回すうちにエンジンは息を吹き返した。いけるか!?「行ける!」ラストドライバーのモジャが力強く言い、マシンに乗り込む。Fatalにできる事はもう、祈るだけだった。

息のつまるような15分が過ぎ、レースの時間はあと数分。このままゴールまで……そう思った矢先、赤旗が振られる。モジャの乗った車はなかなか戻ってこない。まさか、ここまで来て……!?しかしそれは杞憂だった。最後尾付近に姿を現わす20号車。結局再スタートは切られずそのままレース終了となる、ややすっきりしない幕切れ。しかしとにかく完走できた……それだけで満足で、クラス9位という結果はどうでも良かった。が、改めて考えると上位との差はあまり開いてなく、わずかなタイムアップで十分入賞を狙えそうな手応えを感じた。来年はホンダロデオの野沢ダートのスケジュールが確定しておらず、またレーシングカートの頻度も増やそうという話もでているので自動車部の主戦場はこちらになるかもしれない。

とにかく、これで風来旅団のシーズンは終わったのだ。新たなる戦いまで、しばしの休息を――