TULLY’S COFFEE 物語 その3

(コーヒーより君が目当てなんだ)
そんな臭いセリフを吐く俺を夢想しつつ別のセリフが口から出る。


「ええ、コーヒー好きなんですよ。
 子供の頃から両親と一緒に飲んでいて、そのままなんとなく。」
「そうなんですか。どうですか?うちのコーヒー、美味しいですか?」
「そうですね、近くにエクセルシオールとスタバあるじゃないですか。
 あと30円値段違ったらそっちに行っちゃうかも、ぐらい。」
「なんですかそれー、うちのコーヒーは30円分の価値しか無いってことですか?」
「いやいや冗談ですよ、値段で選ぶぐらいならドトールか、
 もっと言えば缶コーヒーで済ませちゃいますって。」
「何かだまされてる気がします。」
「いやいや騙してない騙してない」


他愛無い会話をしながらも彼女に見とれっぱなしの俺。
くるくる変わる表情にどんどん惹かれている……
ふと会話が途切れた瞬間、彼女が真面目な表情でまっすぐこっちを見ている。
やべ、ずっと見てたの気が付かれたか。


「今日はどうして誘ってくれたんですか?」
「いや、そりゃ、えーとその、こ、答えなきゃ駄目ですか?」
「駄目です。」


言うしかない。


「……僕の、彼女に、なってください。」


彼女の表情が曇った。
少し怒った様な、あきれたような。


「答えになってません。」
「え?」
「『今日はどうして誘ってくれたんですか?』って聞いたんです。
 それじゃ、答えになってません。」
「それは、あの、一緒にお話できたらいいなって、それで。」
「それだけですか?」
「それで、それで……もっと一緒に居たいと思ったし、
 いつも眺めてるだけの君の事をもっと知りたいと思ったし。」
「そ・れ・で?」
「お互い子供じゃないし、あわよくばエッチなことまでできたらいいな
 って何言ってるんだ俺、あはは、あはははは、はあああ。」
「返事はもう少し待ってくださいね。」
「へ?」
「さっきの返事。
 今は恋愛とか興味ないし、貴方の事もまだ良く知らない。
 とりあえずコーヒーとエッチが好きらしいってのはわかったけどぉ……」
「いやコーヒーはともかくエッチは……好きです、ごめんなさい。」
「ぷっ、あははははは」


彼女が笑った。今までと、また少し違う笑顔。
いつも自分の隣で、こんな笑顔を見せてくれたら……なんて事を考える。


「今日はありがとうございました。また誘ってくださいね。」
「こんな時間に、どうやって帰るの?」
「うち、ここから近いんです。いつも自転車で来てるんですよ。」
「そっか。……じゃぁ、また。」
「はい、また。お気をつけて。」
「そちらこそ。」

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「一応、脈アリ……かな。」


自宅に帰るのも面倒になったので、
近所のファミレスに向かって歩きながらそんな言葉を呟く。
また明日、いや日付では今日だけど、
タンブラーを持ってお店に行こう。


彼女の笑顔を、見るために。